センサーデータとは、温度や振動、位置などの物理的な現象をセンサーが検知し、信号として記録したデータです。IoTの普及で工場や車両、物流拠点など、あらゆる現場からセンサーデータを集められる時代になった一方、集めたデータを分析やAIに活かしきれていないという声も多く聞かれます。
本記事では、センサーデータの基礎知識から種類、活用例、活用でつまずきやすい課題と成果につなげる進め方まで解説します。現場のデータをビジネスに活かしたいと考えている方は、参考にしてください。
センサーデータとは、センサーが検知した物理的な現象を、数値や信号に変換して記録したデータです。温度や振動などのセンサーデータは、一定間隔で計測する方式のほか、変化や特定の事象を検知したときに出力する方式もあります。計測してデータ化する行為はセンシングと呼ばれ、その結果として蓄積されていく記録の集まりがセンサーデータにあたります。
身近な例を挙げると、自動ドアの人感センサーやスマートフォンの加速度センサーも、絶えずセンサーデータを生み出す装置です。近年はIoTの広がりで機器をネットワークにつなぐ環境が整い、工場の設備や車両、物流拠点など、企業の現場から大量のセンサーデータを集められるようになりました。
センサーデータの特徴は、時間の流れに沿って連続的に記録される時系列データである点です。人が入力するデータと違って主観が入らない半面、機械が休みなく生成し続けるため、データ量は放っておいても増え続けます。
センサーデータの種類は、検知する対象によってさまざまです。企業の現場でよく使われるものを整理すると、以下のようになります。
| センサーの種類 | 取得できるデータ | わかることの例 |
|---|---|---|
| 温度・湿度センサー | 温度・湿度の変化 | 設備の発熱、保管環境の管理 |
| 振動・音センサー | 揺れや音の波形 | 回転機器の劣化や異音の兆候 |
| 加速度・ジャイロセンサー | 動きや傾き | 車両の挙動、機器の転倒検知 |
| 位置センサー(GPSなど) | 位置情報 | 車両・資材の所在、動線の把握 |
| 圧力・流量センサー | 圧力や流れる量 | 配管・プラントの稼働状態 |
| 画像・光センサー | 映像や光の変化 | 外観検査、人や物の検出 |
実際の現場では、1種類だけでなく複数のセンサーを組み合わせて使うのが一般的です。たとえば設備の状態を捉えるなら、温度と振動を併せて見ることで、単独では気づけない異変の兆候もつかめるはずです。
センサーデータの活用は、製造業を中心に幅広い現場へ広がっています。ここでは代表的な3つの活用例を紹介します。
予知保全は、センサーデータ活用のもっとも代表的な用途です。設備の温度や振動を常時計測し、正常な稼働状態からどれだけ離れているかを数値でとらえることで、故障の兆候を早い段階で検知し、壊れる前に手を打てるようになります。
定期交換に頼る保全と比べて、部品の無駄や突発停止のリスクを抑えられる点が持ち味です。人手不足が続く製造現場で、保全の省力化を支える手段として注目が高まっています。
品質管理と稼働分析も、センサーデータが力を発揮する領域です。製造工程の温度や圧力を記録し続ければ、不良が発生したときに当時の条件をさかのぼって特定でき、原因究明と再発防止につながります。
また、設備ごとの稼働時間や停止回数のデータからは、生産ラインのボトルネックが見えてきます。勘や経験に頼っていた改善活動を、数値を根拠に進められる点が大きな変化です。
AI・機械学習モデルの開発でも、センサーデータは学習の材料として重要な存在です。故障予測や画像による外観検査、自動運転の環境認識など、現場で働くAIの多くは、大量のセンサーデータを学習して精度を高めています。
学習の成否は、データの量だけでなく質にも左右されます。欠損やノイズへの対応に加え、教師あり学習では正解ラベルの付与(アノテーション)やデータの偏りへの対策が重要です。一方、異常検知などではラベルのないデータを使う教師なし学習も用いられます。
センサーデータは有用な半面、扱いには独特の難しさがあります。多くの現場に共通する3つの課題を解説します。
センサーデータは大量かつ高頻度に発生するため、データ量が大きくなり、その保管と処理が追いつかなくなるリスクがあります。1秒間に何度も計測するセンサーを多数の設備に取り付ければ、データは日々増え続け、保管コストと処理時間の両方が膨らんでいきます。
対策の基本はどの粒度でどれだけの期間残すのかを決め、集約や間引きのルールとあわせて、増加に耐えられる蓄積基盤を用意することです。ただし、ルールづくりと基盤の整備には初期の設計負担が伴い、決めただけでは現場で形骸化しがちです。誰がデータ管理に責任をもつのかという運用体制まで含めて整えなければ、対策として機能しません。
センサーデータにノイズや欠損があるなど品質が低いと、前処理が必要になります。センサーは機械的に記録するため主観は入りませんが、実際のデータには電気的なノイズ、通信断による欠損、センサーの劣化による値のずれなどが含まれます。複数のセンサーを組み合わせる場合は、機器間の時刻のずれも分析を狂わせる要因です。
解決策は、外れ値の処理や欠損の補完、時刻合わせといった前処理を分析の前段に組み込むことです。もっとも、前処理を人手でおこなうと工数が大きく、データが増えるほど担当者が疲弊していきます。手作業を前提にせず、自動化を見据えて前処理を設計しないと、分析がいつまでも前処理の手前で止まってしまいます。
データの分断も、現場でよく起こる課題です。設備の導入時期やメーカーが違えばデータの形式も出力方法もばらばらで、せっかく集めても機器ごと・部門ごとに孤立したまま残ってしまいます。
分断の解消には、形式を変換してそろえ、1か所へ集約する統合基盤が必要です。一方で、変換処理の開発や既存システムとの接続、部門間の調整には費用と人手がかかります。すべてを一度に統合しようとすると負担で頓挫しやすいため、価値の高いデータから優先順位を付け、段階的に統合を進める計画が成功の条件になります。
課題を踏まえると、進め方の要点は「取る前の設計」と「取った後の仕組み」の2つです。ここからは3つのステップで解説します。
取得設計は、センサーを取り付ける前に済ませておきたい工程です。何を判断するためのデータなのかが決まれば、必要なセンサーの種類、計測の頻度、求める精度はおのずと絞られ、過剰な投資もデータの持て余しも防げます。
たとえば故障予兆の検知が目的なら、対象設備の壊れ方から逆算して、振動か温度か、どの位置で測るべきかを検討する順序になります。目的の定義を飛ばしてセンサー設置から入ると、使い道のないデータばかりが残りがちです。
前処理の自動化は、継続的な活用の生命線です。ノイズ除去や欠損補完を毎回手作業でおこなっていては、データが増えるほど分析の手前で力尽きてしまいます。収集から前処理、蓄積、分析環境への受け渡しまでを一連の流れとして自動化すれば、常に使える状態のデータを保てます。
仕組みの全体像は「データパイプラインとは?仕組みや種類、ETLとの違いと構築のポイントを解説」で詳しく解説しているので、設計の参考にしてください。
スモールスタートは、センサーデータ活用でも有効な進め方です。すべての設備で高度な活用が最適とは限らず、故障の影響が大きい設備や、改善効果を測りやすい工程から着手するほうが、投資対効果を確かめながら進められます。
1つの対象でデータを取り、整え、判断に使う流れを確立できれば、同じ仕組みを他の設備や拠点へ横展開できます。小さな成功を足がかりに、活用の範囲を段階的に広げていきましょう。
センサーデータは、現場の物理的な変化を客観的な数値として記録できる、データ活用の有力な素材です。予知保全や品質管理、AI開発まで、用途は広がり続けています。
一方で、大量・高頻度、ノイズや欠損、形式の分断という3つの壁があり、取るだけでは分析に使えません。目的から逆算した取得設計と、前処理・蓄積を自動化する仕組みをそろえて、初めて現場の判断に届くデータになります。
対象を絞った小さな一歩から、センサーデータを成果に変える体制づくりを進めていきましょう。
センサーデータの価値は、現場で発生した瞬間ではなく、整えられて判断に使われたときに生まれます。ノイズや欠損を含む生データを分析やAIに耐える品質へ引き上げる工程には、データの性質を踏まえた設計と実装が欠かせません。
弊社ブライセンは、アノテーション・収集・蓄積にとどまらない「AI社会のビジネスで本当に生きるデータ基盤」の設計・構築を手がけています。複雑化するデータ環境やAI技術に対し、要件定義から基盤構築、運用・改善までを一貫して支援し、日本とベトナムの体制のもと、自動車・プラント・製造など高度な現場データが求められる業界で実績を重ねてきました。
設備からデータは取れているのに前処理が追いつかず分析まで進めない、機器ごとに形式が違って現場のデータを統合できない、といった課題をおもちの方は、お気軽にご相談ください。