IoTデータ活用とは、センサーや機器から収集したデータを蓄積・分析し、業務の改善や新しい価値の創出につなげる取り組みです。センサーの低価格化と通信環境の進化で導入のハードルは下がった一方、データを集めたものの活かしきれていない企業は少なくありません。
本記事では、業界別のIoTデータ活用事例を一次情報にもとづいて紹介し、収集したデータを成果につなげるためのデータ基盤設計のポイントまで解説します。自社のIoT活用を前に進める際の参考にしてください。
IoTデータ活用とは、モノに取り付けたセンサーや通信機器から集まるデータを、蓄積・処理・分析を経て業務の判断に使える形へ変えていく営みです。IoTはデバイス・ネットワーク・アプリケーションの3要素で構成されますが、価値を生むのは「つなぐこと」自体ではありません。集めたデータが現場の改善や経営の意思決定に届いて、初めて投資が成果に変わります。
活用の水準は、大きく次の3つの段階です。
| 段階 | 内容 | 代表的な用途 |
|---|---|---|
| 見える化・遠隔監視 | 稼働状況や環境データをリアルタイムに把握する | 設備の稼働モニタリング、車両の位置管理 |
| 異常検知・予知保全 | 通常と異なる兆候をデータから検出する | 故障予兆の検知、品質異常のアラート |
| 予測・最適化 | 蓄積したデータを分析し、先回りの判断につなげる | 需要予測、エネルギーの需給調整 |
多くの企業は見える化から始め、データが溜まるにつれて予知保全や予測へと段階を進めていきます。ただし、後段へ進むほど求められるデータの量と質は上がるため、収集から分析までの基盤をどう設計するかが実務上の分かれ目です。
IoTデータ活用は幅広い業界で成果を上げています。ここでは公式情報で確認できる5つの業界の事例を紹介します。
製造業では、自社製品にセンサーと通信機能を組み込み、出荷後の稼働データをサービスに変える取り組みが定着してきました。機械の位置・稼働時間・警告情報を遠隔で把握できれば、保守のタイミングを先回りで判断でき、顧客の停止時間も減らせます。稼働データの蓄積が進めば、故障予兆の検知といった予知保全への展開も視野に入ります。
代表例がコマツのKomtraxです。GPSと通信システムを備えた建設機械から稼働情報や位置情報を収集・蓄積し、顧客や販売代理店が車両管理やメンテナンス管理に活用できる仕組みで、2001年から標準装備化が進められてきました。2025年にはKomtraxの位置情報を大規模災害時に国土交通省へ提供する取り組みも始まり、国内の装備車両は約25万2千台に達しています。
出典:Komtrax|サービス・サポート|コマツカスタマーサポート/Komtraxから取得する建機位置情報を大規模災害時に提供開始|コマツ
運輸業は、車両から集まる運行データを安全運転と業務効率の両面に活かしやすい分野です。導入の裾野も年々広がっています。位置情報だけでなく、燃費や運転操作まで記録できるため、日報の作成や労務管理の負担軽減にも直結します。
いすゞ自動車の商用車テレマティクスMIMAMORIは、データ通信とインターネットを活用し、燃費、CO2・NOx・PMの排出量、車両の現在位置、ドライバーの運転操作情報などを遠隔で収集・解析するクラウド型の運行管理システムです。2022年の全面刷新では、ドライバーの労働時間規制に伴ういわゆる2024年問題への対応として、労務管理や動態管理の機能が拡充されました。
出典:いすゞ、商用車テレマティクス「MIMAMORI」のフルモデルチェンジを実施|いすゞ自動車
農業では、経験と勘に頼ってきた栽培判断をデータで支える取り組みが進んでいます。機械の稼働情報と圃場・作業・収穫の情報を結び付ければ、熟練者のノウハウを数値として残せるため、担い手不足への備えにもつながります。
クボタの営農支援システムKSAS(クボタスマートアグリシステム)は、圃場や作業記録の見える化に加え、食味・収量センサ付きコンバインで刈り取りながら圃場ごとのデータを取得し、次年度の可変施肥による食味・収量の改善につなげる仕組みです。ドローンで撮影した生育マップとの組み合わせや、蓄積した営農データを外部システムと連携させるKSAS APIの提供など、データ活用の範囲を広げ続けています。
出典:クボタ営農支援システムKSAS|株式会社クボタ/クボタの営農支援システム「KSAS」、社外とのデータ連携を開始|株式会社クボタ
エネルギー業界では、通信機能をもつ電力量計であるスマートメーターが、社会インフラ規模で展開されるIoTデータ活用の代表例です。検針員の訪問に頼っていた計測を遠隔化するだけでなく、集まる使用量データそのものが設備計画の材料に変わります。
東京電力パワーグリッドのスマートメーターは、30分ごとの電気使用量を計測し、遠隔での自動検針で検針業務を効率化する仕組みです。メーターごとの使用量から電流を把握できるため、変圧器容量の選定など設備形成の精度向上に活用できるとし、災害時の停電箇所の把握への活用も期待されています。
自治体でも、地域課題の解決にIoTデータを使う事例が積み上がっています。総務省が公開する「ICT地域活性化事例100選」は、防災・農業・交通など分野別に先進的な取り組みを参照できる政府の事例集です。
たとえば新潟県妙高市の除雪管理システムでは、積雪と気温をセンサーで把握するとともに、除雪車に取り付けた端末から位置情報と仕事量を市役所で一括管理しています。雪と気温の状況や除雪車の位置は、Webサイトやケーブルテレビを通じて市民や観光客にも提供され、安全確保と効率的な除雪対応の両立に役立てられています。
事例に共通するのは、データを集める仕組みと活かす仕組みを一体で設計している点です。ここでは、自社で取り組む際に押さえておきたい3つのポイントを解説します。
活用目的の明確化は、IoTデータ活用の出発点です。取れるデータをすべて集める発想で始めると、保管コストばかりが膨らみ、分析に使われないデータの山が残ります。
まず、停止時間の削減率や保守コストの圧縮額など、成果を測る指標を決めてください。そのうえで、指標の改善に必要なデータだけをさかのぼって特定すれば、センサーの種類も収集頻度も自然に絞り込めます。目的から逆算する順序を守ることが、投資対効果を高める近道です。
データパイプラインの設計は、収集したデータを価値に変えるための中核工程です。IoTデータはセンサーごとに形式や頻度がばらばらで、欠損やノイズも含まれるため、収集・蓄積・加工・提供の流れを自動化しなければ、分析の前処理に人手を取られ続けます。
とくに、あとから予知保全や予測へ段階を進めることを見据えるなら、データの流れを最初から設計しておく意味は大きいです。パイプラインの仕組みや構築手順は「データパイプラインとは?仕組みや種類、ETLとの違いと構築のポイントを解説」で詳しく解説しているので、あわせて参考にしてください。
データ品質とセキュリティの運用体制も、活用を続けるうえで欠かせない要素です。センサーの故障や通信断でデータが欠けたまま分析すれば、誤った判断につながりかねません。欠損の検知や補完のルールを決め、品質を監視する仕組みを運用に組み込みましょう。
また、IoT機器は常時ネットワークにつながるため、不正アクセスへの備えも必要です。通信の暗号化やアクセス権限の管理、機器のアップデート運用まで含めて、セキュリティを継続的に維持する体制を整えてください。
IoTデータの活用は、センサーを設置した時点ではなく、集めたデータが業務の判断に使われ始めた時点で成果につながります。データが使われ始めるまでの収集・蓄積・加工の基盤づくりこそ、専門性が問われる領域です。
弊社ブライセンは、アノテーション・収集・蓄積にとどまらない「AI社会のビジネスで本当に生きるデータ基盤」の設計・構築を手がけています。複雑化するデータ環境やAI技術に対し、要件定義から基盤構築、運用・改善までを一貫して支援し、日本とベトナムの体制のもと、自動車・プラント・製造など高度な現場データが求められる業界で実績を重ねてきました。
センサーは導入したもののデータが溜まる一方で活かせていない、分析前の加工に人手を取られ続けている、といった課題をおもちの方は、お気軽にご相談ください。
IoTデータ活用は、建設機械の遠隔管理から商用車の運行解析、営農支援、スマートメーター、自治体の除雪管理まで、業界を問わず具体的な成果を生んでいます。各事例に共通するのは、センサーを付けること自体ではなく、集めたデータを業務の判断に届ける流れまで作り込んでいる点です。
一方で、目的が曖昧なままデータを集め始めると、蓄積コストだけが増えて活用が止まります。成果指標から逆算して収集データを絞り、収集から分析までのパイプラインと品質・セキュリティの運用体制をセットで設計する進め方が、遠回りに見えて確実です。
自社の課題に近い業界の事例を手がかりに、まずは見える化の小さな一歩から、データが業務に届く仕組みづくりを始めましょう。