データクレンジングとは、データベースや表に含まれる誤り、重複、欠損、表記の揺れを見つけ出し、正しく使える状態へ整える作業です。社内のデータは入力する人やシステムごとに書き方がばらつきやすく、そのまま集計や分析に使うと、数字のずれや誤った判断を招きかねません。AI活用を進める企業が増えるなかで、学習や分析に渡すデータの品質は、これまで以上に重視されるようになりました。
本記事では、データクレンジングの意味やメリット、主な手法、実施する方法の比較、注意点までを、社内のデータ活用を担当する方に向けて解説します。自社のデータを見直す際の参考にしてください。
データクレンジングとは、不正確なデータや重複したデータ、欠損したデータを修正・削除し、分析や業務で活用できる状態へ整える作業を指します。英語のcleansingには洗浄や浄化という意味があり、データに含まれる汚れを落として使える形にする取り組みです。対象は、顧客リストや商品マスタ、売上データ、センサーから集めた計測データなど、社内に蓄積されるさまざまなデータに及びます。
データクレンジングを済ませておけば、集計や分析、AIの学習にそのまま使えるデータを用意できます。なお、データを収集してから分析に届けるまでの流れのなかで、データクレンジングがどの段階にあたるかはデータパイプラインとは?仕組みや種類、ETLとの違いと構築のポイントを解説で紹介しているので、あわせてご覧ください。
データクレンジングでデータの品質を高めると、分析や日々の業務、AI活用など、さまざまな場面で効果が得られます。ここでは、代表的な4つのメリットを紹介します。
データ分析の精度を高められることは、データクレンジングの代表的なメリットです。誤ったデータや重複したデータが混ざったまま集計すると、実態とは異なる数字が算出されてしまうためです。
たとえば、同じ顧客が「株式会社山田商事」と「(株)山田商事」の2件で登録されていると、顧客数は実際より多く数えられ、1社あたりの売上は少なく表示されます。重複や表記の揺れを整理しておけば、顧客数や売上を正しく集計することが可能です。
集計の元になるデータを整えておけば、報告や会議の場で数字の出どころを確かめ直す手間も減っていきます。
データクレンジングは、業務の効率化にもつながります。データが整っていないと、必要な情報を探したり、誤りを見つけて直したりする作業に時間を取られるためです。
実際の業務では、商品名の書き方が担当者ごとに異なると、検索しても目当ての商品が一部しか表示されず、別の書き方で探し直す手間が発生します。重複した顧客データがあれば、どちらが最新の情報かを確かめる作業も必要です。データクレンジングで表記や登録の状態をそろえておくと、日々の検索や確認、修正にかかる時間を短縮できます。
また、重複データが残っていると、同じ顧客へ案内を二重に送ってしまうといったミスも起こりかねません。確認や手直しの手間が減った分、担当者は本来の業務に時間を使えるようになります。
信頼できるデータをもとに経営や施策を判断できることも、データクレンジングのメリットです。データに誤りがあると、そのデータから導いた判断も誤った方向へ進んでしまうためです。
たとえば、欠損や異常値を含む販売データをもとに需要を見積もると、仕入れや生産の量を見誤るおそれがあります。在庫が余れば保管費がかさみ、足りなければ販売の機会を逃してしまいます。整えたデータを使えば、実態に近い数字をもとに計画を立てることが可能です。
さらに、部門ごとに異なる数字を持ち寄る状態が解消されれば、会議で「どの数字が正しいのか」を議論する時間も減らせます。全員が同じデータを見ながら判断できる環境を整え、意思決定のスピードと質の両方を高めていきましょう。
AIの回答や予測の精度を高められる点も、データクレンジングをおこなう大きなメリットです。AIや機械学習のモデルは与えられたデータから傾向を学ぶので、元のデータに誤りがあると、誤りを含んだまま学習してしまうためです。
単位のそろっていない数値や重複したレコードを含むデータで需要予測のモデルを作ると、予測値が実態から外れやすくなります。社内の文書をもとに回答する生成AIの仕組みでも、古い情報や矛盾する情報が残っていれば、誤った回答を返す原因になりかねません。
AIに渡す前にデータクレンジングをおこなえば、学習や回答のもとになるデータの品質を一定に保てます。そのため、AI活用を進める際は、モデルやツールの選定と並行して、渡すデータの整備にも取り組みましょう。
データクレンジングでは、データの状態に応じて修正の方法を使い分けます。ここでは、代表的な5つの手法を具体例とともに紹介します。
データクレンジングでは、まず重複したデータを削除・統合しましょう。同じ顧客や商品が複数登録されていると、集計の数字がずれるうえ、どのデータを更新すればよいのか分からなくなるためです。
具体的には、顧客名や電話番号、メールアドレスなどの項目を照らし合わせ、同一と判断できるデータを1件にまとめます。内容が完全に一致するデータは削除し、住所だけが新しいなど一部が異なるデータは、最新の情報を残して統合するのが基本です。
なお、重複の判定には、1つの項目ではなく複数の項目を組み合わせて使いましょう。名前だけで判定すると別人を同一人物と誤認するおそれがあるので、判定のルールを先に決めてから作業に入ると安心です。
表記の揺れも、ルールを決めて統一しましょう。同じ意味のデータでも書き方が異なると、システム上は別のデータとして扱われるためです。表記の揺れが起こりやすい例として、次のようなものがあります。
統一する際は、どちらの書き方を正とするかを項目ごとに決め、文書に残しておきます。ルールが明文化されていれば、作業者が変わっても同じ基準で修正を進められるので、今後の入力にも同じルールを適用しましょう。
欠損したデータは、空欄の内容と利用目的に応じて、補完するか削除するかを判断しましょう。欠損をそのまま残すと、集計から漏れたり、分析ツールやAIの処理でエラーが起きたりするためです。
補完の方法には、ほかのシステムや書類から正しい値を調べて入力する方法と、平均値や中央値などで推定して埋める方法があります。たとえば郵便番号が空欄でも住所が分かっていれば、正しい値を特定して入力することが可能です。一方で、推定値で埋めると分析結果にかたよりが出る場合もあるため、利用目的に照らして使い分けます。
また、分析に必要な項目がほとんど空欄のデータは、無理に補完せず分析対象から外すという選択肢もあります。どのデータを補完し、どのデータを除外したかは、記録に残しておきましょう。
異常値や誤ったデータは、原因を確認したうえで修正しましょう。入力ミスによる誤った値が残っていると、平均値や合計値が大きくずれてしまうためです。
年齢の項目に「250」、購入数量に「-5」といった通常ではありえない値が入っている場合は、入力ミスの可能性が高いと判断できます。元の伝票や記録と照らし合わせて正しい値が分かれば修正し、確認できなければ削除や分析からの除外を検討するのが一般的な進め方です。
ただし、通常の範囲から外れた値が、すべて誤りとは限りません。大口の受注やキャンペーン期間の売上のように、実際に起きた出来事を反映した値もあるため、背景を確かめてから扱いを決めることが重要です。
データの形式や単位も、共通の形式へ変換して統一しましょう。形式や単位がそろっていないと、データを並べて比較したり、システム同士で受け渡したりできないためです。統一しておきたい項目には、次のようなものがあります。
文字コードが異なるファイルをそのまま読み込むと、文字化けが起きる場合もあります。複数のシステムや拠点からデータを集めるときはとくに形式のばらつきが生じやすいので、取り込みの段階で変換ルールを適用し、後工程での手直しを減らしましょう。
データクレンジングをおこなう方法には、Excelによる手作業、ETLツール(データを抽出・変換・格納するツール)、AIの活用、外部委託の4つがあります。データの量や更新の頻度、社内の体制に合わせて選べるよう、それぞれの特徴を比較したのが次の表です。
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方法 |
特徴 |
向いているケース |
注意点 |
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Excelによる手作業 |
重複の削除機能や関数を使い、担当者が目で確認しながら修正する |
データ量が少ない、一度だけ整えたい |
件数が増えると時間がかかり、作業者によって仕上がりに差が出やすい |
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ETLツール |
データの抽出・変換・格納の流れのなかで、決めた変換ルールを自動で適用する |
複数システムのデータを定期的に集めて整えたい |
変換ルールの設計と導入に手間と費用がかかる |
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AIの活用 |
表記の揺れや異常値の候補を洗い出し、修正案を提示させる |
ルールで書ききれない揺れが多い、データが大量にある |
誤った修正案が含まれることもあり、人による確認が必要 |
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外部委託 |
専門の事業者がデータの調査から修正、再発防止の仕組みづくりまでを担う |
社内に担当者やノウハウがない、大規模なデータを扱う |
データの受け渡し方法と情報管理のルールを事前に取り決める必要がある |
Excelで作業する場合は、データタブの「重複の削除」機能や、全角の英数字を半角に変換するASC関数、余分なスペースを取り除くTRIM関数などを組み合わせると、効率よく進められます。
一方で、データが毎日追加される環境では手作業の負担が積み重なっていくため、ETLツールで変換ルールを自動化する方法が向いています。なお、ETLをはじめとするデータの受け渡しの手法は、データ連携とは?代表的な手法とメリット、進まないときの対処法を解説で詳しく取り上げているので、あわせてご覧ください。
AIは、ルールでは書ききれない表記の揺れを見つけたり、大量のデータから異常値の候補を洗い出したりする場面で力を発揮します。ただし、AIに示させた修正案をそのまま反映すると誤りが混ざる可能性もあるので、最終的な判断は人がおこなう運用にしておきましょう。社内で対応しきれない場合や、データ基盤の整備まで含めて進めたい場合は、外部委託を選ぶという手もあります。
データクレンジングは、進め方を誤るとデータを壊してしまったり、整えてもすぐ元の状態へ戻ったりすることがあります。ここでは、作業の前後で押さえておきたい4つの注意点を解説します。
データクレンジングを始める前に、処理前のデータを保存しておきましょう。誤った修正や削除をしてしまったときに、元の状態へ戻せなくなるためです。
作業用のデータとは別に元データのコピーを残し、ファイル名や保存場所から作業前のものだと分かるようにしておきます。データベースを直接修正する場合も、作業前にバックアップを取得しておくのが基本です。
加えて、どのデータにどのような修正を加えたかを記録しておけば、あとから結果を検証したり、同じ処理を繰り返したりする際に役立ちます。元データと作業の記録をセットで残しておくと安心です。
重複や異常値に見えるデータでも、機械的に削除・統合しないようにしましょう。一定のルールで一括処理すると、本来は残すべきデータまで消してしまうおそれがあるためです。
たとえば、同姓同名の別人を同一人物として統合すると、2人分の購入履歴が1人に混ざってしまいます。同じ会社名でも支店ごとに別の取引先として管理している企業もあり、名前が一致しているだけで統合してよいとは限りません。
判断に迷うデータは自動処理の対象から外し、業務を理解している担当者が確認する流れを作っておきましょう。人の目を通す工程を残しておくことで、クレンジングによる新たな誤りを防げます。
データクレンジングとあわせて、新たにデータを汚さない仕組みを作りましょう。入力のルールが決まっていないままでは、整えたデータにも再び表記の揺れや欠損が生まれるためです。
具体的には、入力画面で選択式の項目を増やしたり、郵便番号や電話番号の桁数をチェックしたりすることで、誤った値の登録を防げます。必須項目を設定し、空欄のままでは保存できないようにするのも有効な方法です。
あわせて、表記のルールをまとめた入力マニュアルを用意し、入力する担当者の間で共有しておきましょう。データが生まれる入口を整えておけば、クレンジングにかかる手間そのものを減らせます。
データクレンジングは一度きりで終わらせず、継続的にデータ品質を管理しましょう。データは日々追加・更新されていくので、一度整えても時間がたつと重複や欠損が再び増えていくためです。
仕組みとしては、重複件数や欠損率といった指標を定期的に確認し、基準を超えたときに担当者へ通知が届くようにしておくと、問題に早く気づけます。ETLツールなどで変換や重複チェックの処理を定期的に実行するよう設定すれば、手作業に頼らずに品質を保つことも可能です。
また、データ品質の管理を誰が担当するのかも決めておきましょう。担当者と確認の頻度が決まっていれば、品質の維持が特定の人の頑張りに左右されにくくなります。
ブライセンのデータエンジニアリングサービスは、集めたデータを目的に合わせて構造化・加工し、品質を担保した状態で業務や分析に届けるまでを支援するサービスです。
弊社は、データの収集・蓄積にとどまらず、目的起点のデータ設計から基盤構築、運用・改善までを一貫して支援しています。日本とベトナムの開発体制により品質とコストの両立を図り、自動車業界をはじめ、製造業やプラント分野の企業様を支えてきた実績があります。
重複や表記の揺れが積み重なり、せっかく集めたデータを分析やAIに活かしきれていないという方は、お気軽にご相談ください。
データクレンジングは、データに含まれる重複や表記の揺れ、欠損、異常値などを修正し、分析や業務で活用できる状態へ整える作業です。データの品質が上がれば、分析の精度や業務の効率、意思決定の質、そしてAIの回答や予測の精度を高めることにつながります。
主な手法は、重複の削除・統合、表記の統一、欠損の補完、異常値の修正、形式や単位の統一の5つです。データ量や体制に応じてExcel、ETLツール、AI、外部委託を使い分け、作業前のデータ保存や人による確認も忘れずにおこないましょう。
一方で、データクレンジングは一度整えれば終わる作業ではありません。入力のルールづくりと定期的な品質チェックを組み合わせ、正確な分析やAI活用を支える基礎として、きれいなデータを保ち続ける体制を整えていきましょう。